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若者は映画に生きる

デッド・ドント・ダイ 感想【途中までネタバレ無し】

デッド・ドント・ダイ

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監督/ジム・ジャームッシュ
脚本/ジム・ジャームッシュ
製作/カーター・ローガン
        ジョシュア・アストラカン
製作総指揮/フレデリック・W・グリーン
                   ノリオ・ハタノ
出演者/ビル・マーレイ
            アダム・ドライバー
            ティルダ・スウィントン
            クロエ・セヴィニー
音楽/スクワール
撮影/フレデリック・エルムズ
編集/アフォンソ・ゴンサウヴェス

 

 

【あらすじ】

警察官が3人しかいないアメリカの田舎町センターヴィルで、前代未聞の怪事件が発生した。無残に内臓を食いちぎられた女性ふたりの変死体がダイナーで発見されたのだ。困惑しながら出動した警察署長クリフ(ビル・マーレイ)と巡査ロニー(アダム・ドライバー)は、レイシストの農夫、森で野宿する世捨て人、雑貨店のホラーオタク青年、葬儀場のミステリアスな女主人らの奇妙な住民が暮らす町をパトロールするうちに、墓地で何かが地中から這い出したような穴ぼこを発見。折しも、センターヴィルでは夜になっても太陽がなかなか沈まず、スマホや時計が壊れ、動物たちが失踪する異常現象が続発していた。

やがてロニーの不吉な予感が的中し、無数の死者たちがむくむくと蘇って、唖然とする地元民に噛みつき始める。銃やナタを手にしたクリフとロニーは「頭を殺れ!」を合言葉に、いくら倒してもわき出てくるゾンビとの激闘に身を投じるが、彼らの行く手にはさらなる衝撃の光景が待ち受けていた……。

映画『デッド・ドント・ダイ』公式サイト|6月5日(金)公開公式サイトより引用)

 

【個人的評価】 95点

 

 

【感想】

 

ジム・ジャームッシュ監督によるゾンビコメディである今作

何もない田舎町にゾンビが襲いかかってくる!という王道とも言えるあらすじ

ジャームッシュ監督と言えばなんと言っても“何も起こらない”オフビートな作風”です。

 


たとえば『パターソン』は「詩作が趣味のバスドライバーが1週間をすごす」ことをただただ描き、殺人や不倫といった話を展開させるための事件が“何もおこらない”まま徹底して日常を描いている映画でした。

 

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バス運転の仕事→ランチ→詩作→帰宅→バーで飲む…といったルーティンを淡々と描く映画『パターソン』

 


程度の差こそあれ基本的にこの作風は他の監督作でも強いのですが、すごいのは何も起こらなくてもめちゃくちゃ面白いってことです!

この面白さというのは言葉で説明するのが難しいので実際観てみることをオススメします。(パターソンは20年6月現在アマプラで観れるよ)

 


かなりユルくて少し笑えてそれでいてめちゃくちゃ計算されてる・・・というのが魅力だと思う

 


さて、そんなジャームッシュ監督がゾンビ映画を撮ると知ったら「一体どんな映画になるんだ!?」と僕は当然思うわけです

だってゾンビですよ!?墓から這い出る歩く死者なんてまさに存在自体が“有事”!何も起こらないとは真逆!

しかも主演のアダム・ドライバーはじめ豪華キャスト集結となれば、これはもう見る他ない!となっていたのですが・・・

洋画あるあるな輸入の遅さにより10ヶ月ほどお預けをくらい、さらにこのコロナ禍の影響を受けさらに1ヶ月半延期され、結局1年以上待たされてしまいましたね・・・(正直そんな待たされるような内容じゃないとおもう)

 

 

 

さて、本題の内容についてですが・・・・これがまた困った映画でしてね・・・

 


この映画はゾンビものであると同時に、多くの登場人物が出てくる群像劇のスタイルをとっている映画でもあるのですが・・・群像劇の醍醐味であるキャラが巧みに絡むアンサンブルがほとんどない!というね

ホラーの面白さと言えば僕は細かい伏線回収だと思うのですがそれすら少ない!

つまり映画に出てくる様々な要素が特に絡み合わず終わるわけです。

 


ある種禁じ手的なラストを含めなんなんだこれ・・・・となること必至な内容なのです

しかし観終わった後、パンフレットや様々な感想などを見て僕はこう思ったのです「これは自分の事しか考えない人を皮肉った話なのだ」と

 


つまりこの映画、人間たちが全然助け合わないんですよね

マジで全然助け合わないのでキャラが絡まないしフラグもバッキバキに折れていくわけです

考えてみれば他のホラー映画では「取り残された大切な人を助ける」といったような動機でわざわざ危険な地へ行ったり、キャラ同士絡んだりすることが多いのですが、そういったものを(多分わざと)放棄してるんです。

 


しかし、ベテランであるジャームッシュ監督がただ下手でそういう話になるということはないでしょう。

僕は監督があえてキャラが誰も助け合わなかったら・・・?という風刺を入れたのだと思います。

これは単なる推測ではなく、実際そういった分断や個人主義といったものを象徴的に描いていたり、始めからぶん投げるつもりの恋愛フラグをわかりやすく描いていることからも分かります。

 


これから観てみたいと思ってる人はここに注目しながら観てみるのも良いでしょう。

 


・・・なんて難しいことグダグダ言いましたが、別にそんなことどうでもいいくらい、くだらなくて、ユルくて、まあまあ笑える(まあまあってところが重要)映画でしたよ!

 


何が面白いってね、まずアダム・ドライバーがもう本当に何しても面白い!あのガタイで愛車スマートに乗ってるだけで面白いし、ナタ振り回してるだけで画になる。

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ティルダ・スウィントン様の刀振り回しもまーカッコいいわヘンテコだわで面白い

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ラストのめちゃくちゃな展開も賛否あるんだろうけど、僕はああいうやば目展開大好きなので笑いましたね。(微妙に伏線と言えないような伏線貼ってるのがミソ)

 


何より楽しかったのはゾンビが蔓延る町をゆったりとパトロールする画ですね

ゾンビが出てるというのにあの遅さ!ここはまさにジャームッシュ作品といった感じでよかったですね。

巨匠ロメロ監督オマージュの歩くゾンビがまた牧歌的な雰囲気を出してて心地よさすら感じました。こういう点ではオンリーワンな映画なのではないでしょうか

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パトカーのライトの照明も心地いい

 

あと、ホラー映画としても日常から非日常への移行をディテールを積み重ねながら丁寧に描いていたのも好印象

 

ただ、他のジャームッシュ作品よりはセリフがペラい気もしましたね

 

 

【ここからネタバレあり語り】

 

 

 

 

ホラーと言えば死亡フラグをはじめとしたフラグを見ても楽しいジャンルです。しかしこの映画では様々なフラグがぶん投げられます。

 

・ホラーグッズショップの兄ちゃんと旅行にきた姉ちゃんとの恋愛フラグ

・パトロールした警察が住民を助けるフラグ

ゼルダがみんなを助けるフラグ

などなど
これらのフラグは自らの保身だけ考えるという思考回路によって捨てられるフラグです。

特に2番目の警察のフラグは人物のなかで一番常識人っぽい人によって捨てられるのが切ないですね

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この真ん中のミンディー巡査が常識人ぽいゆえにフラグをぶち折るのです

 


これらの描写が行き過ぎた個人主義を表しているとするならば、ほかにも分断を表すような描写が強調されてることに気づきます(白人至上主義なスティーブ・ブシェミや厳しい男女の区切りによって離される子どもたちなど)

 

 


このように、自分の事しか考えない物欲ばかりの人間こそゾンビだ!と風刺ってるんじゃないでしょうか(そうかんがえるとなんか説教くさいな〜)

余談ですが、同じくジャームッシュ監督作の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ』では主人公の吸血鬼がそんな欲にまみれた愚かな人間どものことを「ゾンビ」と呼んで見下してるシーンが多々あり、この頃から一貫したテーマ性があることが分かります

ロメロ監督の『ゾンビ』からしてそんなテーマの話ですし、オマージュの面もあるのかもしれません。

 

 

アダムドライバー演じるロニーは作中でたびたびこう言います「まずい結末になる」と

そんな悲劇的な終わりがくると思いながら世界を観る厭世的なロニーの考え方は現代人のそれと被ります

終盤、唐突に出てくるUFO、かなり禁じ手という感じで僕は爆笑したのですが、あれもある種の絶望感を僕らに与えますね

とんでもない理不尽が目の前に起こるも、それに対して我々は何もできないし何も救われない、ただただ見るしかない・・・

そういう点ではUFOもゾンビもある意味で同じであると言えます

そしてこの世に起こる様々な事象にも同じ事が言えるのではないでしょうか

 

 

しかしラスト、結末がわかっているにも関わらず抵抗し「やるだけのことはやってみる」わけです

たとえ悲劇的な終わりだとしてもやるだけやってみるということが大切なのかもしれない・・・というメッセージがあるのかもしれないなーと思いましたね〜

まあそれでそのまま何の捻りもなく悲劇的な結末になるのがある意味とてもジャームッシュらしさがあるなと思いましたw

 

生き残るのが未来ある子供たちと浮世離れした浮浪者なのに何かメッセージを感じましたね。

こういう人たちにこそ希望がある、ということなのでしょうか。

 

【統括】

ユルくて笑えてそれでいて結構キツめの風刺もある、そんな楽しいゾンビ映画でしたよ

なんだかんだ言って、こういうゾンビ映画が観たかった!と思えましたねえ